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東京高等裁判所 平成9年(ネ)1925号 判決 1999年5月31日

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人金谷幸は控訴人に対し六二万円及びこれに対する平成七年六月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人竹下弘は控訴人に対し二九万円及びこれに対する平成七年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

五  右二及び三項は仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

第二  事案の概要

事案の概要は、次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。(なお、控訴人は当審において予備的に不当利得及び不法行為に基づく請求を追加した。)

一  原判決書六頁四行目の「遅延損害金」を「訴状送達の日の翌日を起算日とする遅延損害金」に改める。

二  同六頁六行目の「契約」を「各契約(以下「本件契約」という。)」に改め、同八頁一〇行目末尾の次に行を改めて次のとおり付け加える。

「(当審における被控訴人らの主張)

仮に、右主張が理由がないとしても、次の理由により本件契約は無効である。

1 本件契約は、北側専用使用部分のうち被控訴人金谷の区分所有建物に対応する部分(以下「本件スペース」という。)に対する専用使用権が存在しないことを前提とし、被控訴人らが契約を締結しないと、第三者の駐車スペースとして使用させ、結果的に被控訴人らの専用使用権を剥奪するものであって、その内容自体が違法である。

2 前述のとおり本件決議は無効であるから、本件契約については有効な総会決議による授権がない。

3 本件決議及び本件契約当時、控訴人の理事長松崎仁一(以下「松崎」という。)は本件スペースについて控訴人金谷の専用使用権が存在しないものと認識し、被控訴人らが契約を締結しないと本件スペースに被控訴人以外の第三者のための駐車場が設置されてしまうとの認識を被控訴人らに示して、被控訴人らに、本件スペースには被控訴人金谷の専用使用権が存在せず、被控訴人らが契約を締結しないと本件スペースに被控訴人ら以外の第三者のための駐車場が設置されてしまうとの錯誤を生じさせ、その錯誤により本件契約が締結された。」

第三  証拠関係《略》

第四  当裁判所の判断

当裁判所の判断は、次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決書一〇頁四行目の「被告金谷各本人尋問の結果、」の次に「当審証人松崎の証言、」を、同五行目の「一九、」の次に「二四、」を、同行目の「乙七、一一、一七、一八」の次に「、二三」をそれぞれ加える。

二  同一三頁二行目冒頭から同一四頁七行目末尾までを次のとおり改める。

「3 その後、駐車を一切認めないのは不便であるとの意見が出たことから、被控訴人金谷も出席した控訴人の理事会において、北側専用使用部分を駐車場として利用できるようにし、利用者に一定の使用料を負担させ、これを積み立てて将来必要となる本件マンションの大規模な修繕の費用に充てるとの議案が決定され、平成二年五月一三日に開催された控訴人の総会において本件決議がされた。」

三  同一五頁九行目冒頭から同一六頁六行目末尾までを次のとおり改める。

「そして本件契約が締結されたころ、被控訴人金谷から本件マンション一〇三号室を賃借していた株式会社ショウエイも控訴人との間で同室に対応する北側専用使用部分一区画について使用契約を締結した。」

四  同一六頁九行目の「しかしながら、」の次に「一〇二号室の区分所有者である」を加える。

五  同一九頁一行目冒頭から同二四頁末行末尾までを次のとおり改める。

「二 以上の事実関係を前提として被控訴人らの主張について検討する。

1 被控訴人らは、本件決議の内容は被控訴人金谷の従来の専用使用権を剥奪するものであり、無償の右権利を有償とするものであるから、特別決議及び被控訴人金谷の同意が必要である旨主張する。

しかし、本件決議自体において従来の無償の専用使用権を消滅させることが明らかにされているわけではなく、一方、決議の内容は月額一万円の対価を支払うことによって駐車場としての利用を認めるというものであるから、本件決議がされるに至った経緯に関する前記認定の事実に当審における証人松崎の証言を合わせ考えると、本件決議は、従来一階の事務所、店舗の利用のためその前面に位置する敷地部分(北側専用使用部分)が実際の必要から駐車目的で使用されることが多かった現実と、駐車場としての使用を認めることへの強い要望とを背景とし、一方で、他の場所で有料の駐車場を借りている一階以外の区分所有者の負担との均衡を考慮し、一階の区分所有者(又は使用者)に従来無償とされていた用法に加えて、駐車場としての使用を認めるとともに、それを有料とすることによって右の点の調和を図ったものと認めるのが相当である。そして、控訴人と使用契約を締結したのは全員本件マンション一階の区分所有者又は店舗使用者であり、また契約の締結を拒否した松本所有の区分所有建物に対する区画については第三者との間で使用契約が締結された形跡がないのであって、これらの点からみて、一階の区分所有者又は店舗使用者以外の者との間での使用契約の締結は予定されていなかったとみられる。したがって、本件決議により被控訴人金谷の専用使用権が剥奪されたり、有償とされたとみることはできない。

なお、本件決議がされた総会において、有償の使用契約を締結しない場合に従前の無償の使用が引き続き可能かどうかが議論の対象とならなかったことはさきにみたとおりであるが、本件決議のされた経緯、趣旨が右のようなものであれば右の点が議論されなかったことは特段異とするに足りず(《証拠略》によると、一階の区分所有者ないし使用者で駐車場として使いたくないという人はいなかったので、駐車場としての有償の使用をしない人の処置については全く議題に上らなかったというのであり、右供述記載はその間の事情を伝えるものとして信用するに足りるものということができる。)、右議論がなかったことからその点の定めがされなかったということはできず、かえって従来の定めがそのまま有効に存続することに変りはなかったというべきである(ちなみに、一階の区分所有者が駐車場としての使用を希望しないため有償の契約をしない場合に、その者の承諾があれば他の区分所有者との間に駐車場としての使用目的で有償の契約をすることは可能である。その場合でも従来の用法による無償の使用権は残ることになろう。)。

もっとも、本件決議を受けて作成された「専用使用契約書」の第6条の記載は前記のようなものであって(引用にかかる原判決一4冒頭部分)、これによると、従来無償とされていた用法(通常の店舗、事務所出入口、営業用看板(電飾を含む)等設置場所としての用法)による使用を認められるためには契約を締結して対価を支払わなければならなくなったようにみられなくもないが、《証拠略》によると、本件決議当時の控訴人の理事長であった松崎は、駐車場としての使用を希望して控訴人と直接契約をする者が一階の事務所、店舗の賃借人等区分所有者以外の者である場合に、その者にも従来区分所有者に無償で認められていた右掲記の用法が認められることを明らかにする趣旨で右のような記載としたことが認められるのであって、この記載をもって、右用法による使用が有償となった(無償の専用使用権が剥奪された)ものとみることはできない。

以上のようにみれば、平成五年九月五日の総会決議は本件決議の右趣旨を確認したものと認めるべきこととなる。

したがって、被控訴人らの前記主張を採用することができない。

2 右1と同様の理由により当審における被控訴人らの主張1及び2も理由がない。

3 当審における証人松崎の証言によると、本件決議当時松崎は北側専用使用部分について共有地だから当然控訴人が管理しなければならないという意識が強く、被控訴人金谷を含め一階の区分所有者が専用使用権を有していることについて特段の認識をもたないでいたことが認められ、前記1にみたところと右事実とに照らすと、原審における被控訴人金谷の供述及び乙第一八号証(陳述書)の記載中、松崎が、本件決議の際、被控訴人金谷らの専用使用権を廃止する旨述べ、本件決議及び本件契約締結の際、従前専用使用権を有していた者が使用契約を締結しない場合は第三者と契約する旨述べたとする部分は直ちに信用することができず、乙第一七号証中の松崎の発言部分は平成五年七月当時のものであるから、右判断を動かすに足りるものではなく、他に当審における被控訴人らの主張3の事実を認めるに足りる証拠はない。

4 したがって、被控訴人らの本件契約が無効であるとの主張を採用することができない。」

六  被控訴人らに対する訴状送達の日が、被控訴人金谷については平成七年六月一〇日、被控訴人竹下については同月一三日であることは記録上明らかである。

七  したがって、控訴人の主位的請求は理由がある。

第五  結論

以上によれば、原判決は不当であるからこれを取り消し、控訴人の主位的請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項前段、六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(平成一〇年一〇月五日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 生田瑞穂)

裁判官 宮岡章は差し支えのため署名押印することができない。

(裁判長裁判官 新村正人)

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